磯子高校の森

神奈川県立磯子高等学校にある小さな森を残していきたい。磯子高校の記念としても。

クロチクの一斉(全面)開花に遭遇して

昨年12月下旬、県立川崎高校の校内を見回っていて、一つの穂状のものに目が止まった。

おや?明らかに(自分が見た限り)葉ではない。これは…、タケの花だ。

見渡すと、そこかしこにたくさん着いている。

「こんなに花を着けるものなのか」

これが一斉(全面)開花なのだと、頭の中の知識が目の前の光景と一致し始めて、じわじわと実感に変わっていった。

視野一面に無数の花穂が広がっていた。そのとき自分は何らかの驚きの声を上げていたのかもしれないが、具体的には覚えてはいない。周りには誰もいなかった。もしかしたらフェンスの外には行き交う人がいたかもしれないがよく覚えていない。

稈の黒いタケ、クロチク(黒竹)である。

さて、どうやってこの記録を残していこうか。どうしたらよいのか。

学内外問わず紹介もしたい。タケの花が咲いたというだけではきっとみな、ぴんと来ないだろう。珍しいものであることをある程度、証拠づけないと関心を呼べないだろう。

ネット検索をし、さらに川崎市の緑化センターと県立生命の星・地球博物館に問い合わせてみた。

やはり数十年に一度の珍しい現象であることが確認できた。

東京新聞2月8日朝刊、タウンニュース2月10日号、神奈川新聞2月11日の各紙面及びWeb上での記事で紹介していただいた。

いろいろ考えながら現在、過ごしている。

今年2月10日、あることに思い至った。

クロチクの群生している近くに一本、アオギリ(青桐)が生えている。それはクロチクの開花を見つける前から知っていた。そして、タケに関する本に目を通していて「あっ!」と思ったのである。

鳳凰という瑞鳥は有名である。鳳凰アオギリに宿り、タケの実を食べるという。聖徳の王子出現の吉兆と言われる。

県立川崎高校の緑地帯に生えているアオギリは、たまたま野鳥などによる種子の自然散布かもしれない。

しかし、もしかしたら、鳳凰アオギリに宿り、タケの実を食べる瑞鳥であることをご存じだった、かつての県川崎高の関係者のどなたかがアオギリを植えたのだとしたら……。

ぜひとも、その方に今回のクロチクの一斉(全面)開花を知っていただきたいものである。クロチクにはほとんど実がならないにしても。

(左手前の立木がアオギリ。奥にクロチクが見える)

アオギリの枝)

アオギリは2013(平成25)年7月19日の時点ですでに存在していたことは校内の記録にある。

アオギリの胸高(1.2m)の幹の周囲は107cm、胸高(1.2m)直径は約34cm。(2023年2月20日現在)

磯子高校の森もネザサが繁茂している。しかし、手の入れようがないというような代物ではない。大がかりなことをしなくとも、ある程度の手間と時間をかければ維持・管理は十分に行うことができる、それが磯子高校の森に関わって来た人間としての見立てである。

それは生物の多様性にとって重要な作業でもある。

ササ類の開花に周期性があるのかどうか自分にはよく分からないが、例えば、60年説を考えると、1979(昭和54)年に校舎が完成した磯子高校のネザサは、一斉(全面)開花にかなり近づいていると言える。120年に一度となると、最大で今後70~80年の間には開花を迎えることとなる。だが、磯子高校の校舎の完成前からの辺りの開発状況からすると、ネザサはそれ以前から繁殖していただろうと考えられる。磯子高校でネザサが一斉(全面)開花し、その後一斉に枯れたとの話は今のところ耳にしない。とすると、磯子高校の森におけるネザサも、60年周期であれ、120年周期であれ、開花を念頭に注視していってよい時期なのではないかと思われる。

これらの記録は開花のスパンが長いだけに、特に一つ一つが大切になる。

参考文献:『ものと人間の文化史10・竹』(法政大学出版局