緑とはやっかいなもの
横浜市のアンケートでも、緑は大切と考える人が極めて多いことがわかりましたが、実際のところ住宅街においては、時にやっかいものとして扱われていきます。小さい木のうちは誰もさして気にしなかったのが、大きくなって手のつけようがなくなってくると、話は違います。枝を落とすこともままならず、電線にかかっていたりすると台風などの時が心配になり、また落葉樹に限らず常緑樹も葉を更新していきますから、落ち葉の始末もたいへんになってくるからです。
巨木として、観光的な人寄せのできる地位を得れば別でしょうが、民家などに生育する高くなる木は、住宅事情で後から周りに家が建ったとしても、苦情を言われたりしてしまうことが出てくるように思われます。遠くにある分には構わないが、隣近所となるとやはり話は変わります(人が見物に来るようになればなったで、また別の問題が出てきそうです)。
立木(たちぎ)の剪定が迫られた場合、人手が要り、そしてお金がかかります。どこから人が来て、誰が費用を負担してくれるのか。そのようなことは木の所有者が考えて実行すればよい、それはそのとおりです。
しかし、そのとおりに行かない、あるいはそうなりにくい場合を考えていくことが今後の緑のあり方にとって大事な一つと思えるのです。
自然災害による被害が出れば、電線なら電力会社、公道をふさげば管理する公的部署が復旧を行います。
聞いた話では、電力会社も被害が発生しそうな箇所は、こちらからお願いすると剪定してくれるそうですが、それは樹形を整えるためではないので、剪定したい箇所が他にあっても、してはくれないとのことでした。お願いをしなくても被害が発生しそうな場合にはあちらから言ってきてくれるのです。しかし、電線の周囲を確保するためのもので、剪定範囲はたいして広くはないそうです。電話線についても同様でしょう。
先ほど、所有者が考えて実行すればよいが、そのとおりに行かない、あるいはそうなりにくい場合を考えていくことが今後の緑のあり方にとって大事な一つと言いました。
具体的には、最近ある場所で、所有者のいない木があることを知りました。大きな木です。街路樹かと思っていましたが、違うと教えてもらいました。土地は公有地だが、植えたことはない、だから剪定も伐採もしない、そんなお金はない、ということのようです。法的にその言い分が通るのかわかりませんが、その木はもう何十年もそこに生えている、立派な木です。枝ぶりを生かしているのかなと思っていました。しかし、事情はまったく違っていたのです。
一方、緑地を所有される方が維持費や税金などの点で、緑地を維持したいが難しくなっている例も十分考えられます。
人手・諸経費、これはじつに悩ましい問題です。この問題はこれからの緑地を維持していくうえで避けられない大きな課題です。やっかいなことです。
しかし、じつはもともと緑とはやっかいなものであり、人の思うようにはいかないのではないでしょうか。緑に限らず、人の思うようにはいかない、それが生きものである、と認識し直していかなければと考えるのです。人のために他の生きものは生きているわけではありません。どなたかが言われていましたが、何の倫理的ルールもない生物の世界で、バランスを保つ働きを見せているのが今の生態系なのでしょう。
人の思うようにはいかないが、それを踏まえて、街中に人以外の生きものが多く棲める環境づくりが必要です。
所有者が管理することを基本として、これからは誰かの所有だからその人がやるだろう、やらなければ誰かが何とかしてくれと言う以外に、地域の環境として考え、どうしていこうかと行動していくのが大切でしょう。当然、自治体は何らかの協力をすべきです。
地域に点在する小さな緑地や立木を維持していく場合に、少し手を貸すだけで違ってくると思います。実際に先ほどの所有者のいない「大きな木」も、面倒を見ておられる方がいるのです。
生きものはやっかいなものである――。ですから、人が関わっていく必要があります。人も生きもの、かけがえのない大切な存在であり、かつ見方によってはたいへんやっかいな生きものといえるわけです。その人という生きものにとって欠かせない緑を、人の思惑だけで管理下に置こうとするには無理があります。それを承知していくのが、これからの街づくりにおいては不可欠であり、むしろ積極的に視野に入れなければならない点だと考えます。
コシアカツバメ
磯子高校には現在、コシアカツバメの巣が1つあります。 次の写真がそれです。
(2016年3月5日撮影)
コシアカツバメがいつから磯子高校に営巣し始めたのかはわかりませんが、少なくとも今年また、番(つがい)がやってくれば3年目になります。
一昨年、昨年と育雛(いくすう)と巣立ちを観察しています。残念ながら、何羽巣立ったかははっきりしません。
巣の外での動きが速いのと、写真を撮ろうとすると警戒心から親も雛も巣の中に引っ込んでしまうため、親子とも姿を写真に収めることができませんでした。コンパクトデジタルカメラで、コシアカツバメを被写体とするのはあきらめて、巣から出掛けていく飛跡と戻って来た時の姿を眼に焼き付けることにしました。
からだの模様や色の確認はできました。巣の形も独特なので、コシアカツバメと見做(みな)しましたが、同定には不十分ということでしたら、ご指摘いただけるとありがたいです。
コシアカツバメの親が向かっていく先の一つが「磯子高校の森」の少し開けた場所でした。そこは餌場となっていたのです。昨年の観察では、何往復もしていました。 巣からの距離はおよそ100mです。
(余談ですが、今回の写真は今年購入したデジタル一眼レフで撮ってみたものです)
かけがえのないとは
横浜市環境創造局のサイトには、「かけがえのない環境を未来へ」とあります。
かけがえのないとは、代わりになるものがない、このうえなく大切な、ということ。
そのことに神奈川県も、異議はないはずです。
今、中学3年生は卒業の春を控えています。そのみなさんは、光合成によって支えられる陸上の生態系が、「緑」を基としていることをよく知っています。食物連鎖における植物の立場が「生産者」であることも。生物の多様性ということばも、耳にしているのではないでしょうか。
「かけがえのない環境」とは何でしょうか。
一度失ったら、あとで代わりになるものがないといえるものが、昔からの地形・地層を伴った、ほとんど改変されていない表土をもつ緑の集団をおいて、他にあるでしょうか。
⦅まさか臨海部があるとか出てきませんよね。横浜市の海岸線でほぼ自然状態が残っているのは、たった500mくらいといわれていますから。(川崎市は0mですね)⦆
少なくとも、学校の敷地からそうした「緑」、「地盤」、「生態系」が失われていくのだとしたら、教科書の文言など、本当にただの無味乾燥な役に立たない建前に終わります。文科省も環境省もそんなふうには思っていないはずです。
ここで語っているのは、具体的には神奈川県の県立高校の話です。自治体が未来へ繋げなければ、どこもやらないということになります。
「緑」の大切さ
一般的に、県民・市民のみなさんは「緑」をどのように意識しているのでしょうか。
横浜市は2012(平成24)年7月に、市民3000人を対象に「横浜の緑に関する市民意識調査」(回収率39.1%)を実施しています。
その中に、『樹林地や山林、農地、公園や街路樹、植え込みなど、横浜の「緑」の大切さについて、あなたはどのようにお考えですか』との質問があります。
それに対して、「とても大切なものだと思う」「大切なものだと思う」と回答した人が、約98%となっています。「大切だとは全く思わない」と回答した人は、0%(0人)です。
※横浜市環境創造局政策調整部政策課(みどり) - 2012年7月5日 作成 - 2012年9月18日 更新、となっているものから。
たいへん多くの人たちが、「緑」の大切さを意識していることが改めてわかるデータです。
神奈川県・横浜市へのお願いです
横浜市の緑被率(樹林地)は17.0%であることを前回触れました。では、磯子区の緑被率26.9%のうち、樹林地はどれくらいでしょうか。
2014(平成26)年度の磯子区の面積が1901ha、樹林地は368haと公表されています。ですので、磯子区の樹林地は19.4%ですね。
さて、この樹林地の中で、表土の改変がほとんど行われず、現在に引き継がれているのはどれくらいなのでしょうか。このデータがあれば、どなたか教えていただけるといいんですが。
注目すべき点とは、ここなのです。19.4%のうち、どれくらいなのか……。
表土の保たれた樹林地は今後、減りはしても増えることはありません。表土層は今後、守るべき対象です。その中の目に見えない微生物を始め、そこに生息する生きものを丸ごと未来の世代に引き継いでいく、それはとても大切なことと考えます。その丸ごとの生態系を表すのに、表土の改変のほとんどない樹林地に注目しているのです。特に、今ではとびとび点在する小規模な緑地の行く末を案じてのことです。その一つが「磯子高校の森」なのです。
改変のない表土層に、なぜそんなにこだわるのかと首をかしげる方がいると思います。
一例をあげます。 土壌中の細菌から新薬の開発研究がされる、そういう細菌を探されている人たちがいます。
また、何かの本で次のような話が出ていました。京都大学のキノコを専門にする先生で、吉田山の小道にコンクリートを流すことに反対される方がいました。キノコなどの菌類は、ふだん過ごしている姿(本体)が「菌糸」といって、土壌中を伸びていきます。通常、人の目に触れません。それが分断されるというのです。そのキノコの気持ちがわかるかと訴えられていたそうです。
磯子高校の小さな森の表土層にも、過去からの生きた遺産として脈々と続いているのは、まちがいありません。
現在、世界に細菌は100万種以上いると予測され、そのうち人に知られているのは、数千から1万種に過ぎません。未来の人たちが探索・活用できるためにも、これらの生息地を残していく必要があるのではないでしょうか。
ここで強調したい理由は、都市部の緑の状況です。上空からの写真を見ると、だんだんと人が緑を囲み、閉じ込めている、そうした印象を受けます。もはやそこから植物が自ら分布を広げていくことは絶望的といえるほどになってきました。そして何より、緑が姿を消していくことがまだまだ続きそうです。もともとある緑を表土層ごと消滅させ、代替として新たに緑化を推進するというのは、もはや時代錯誤であり、緑地としての価値を損ねています。 神奈川県・横浜市には先見の明を期待します。
引き続き、このブログでは緑の大切さを取り上げていくつもりですが、ここでお願いです。
神奈川県・横浜市は、所有している緑地を手放すことなく、上記のような表土層を基盤とする緑の維持・存続を図ってください。
それらは樹林地に限ったことではありませんが、当ブログでは、磯子高校にある樹林地の中に、それに該当する部分が含まれているため、話を絞っています。辛うじて残され、生き延びてきた生きものたちの住みかを、ざっくり切り崩すようなことは避けてください。
緑被率の注目すべき点
今回調査結果(平成26年度) 緑被率 28.8%
種別 樹林地:17.0% 農地:6.0% 草地:5.9%
上のデータは、横浜市の調査結果の報告にあったものです。 種別の3つのうち、ここでは樹林地に注目していきます。農地と草地は除きます。
農地を除く理由:農地は田園風景の主役ですが、田畑の目的は作物の栽培・収穫にあり、そのための土地は整備・管理されたものです。その田畑の中に、目的以外の植物が生えたとき、それは雑草として取り除かれます。ですので、ここでは基本的に対象から外します。
草地を除く理由:草地として数えられているものに、ゴルフ場、人造公園、グラウンドの芝生などが含まれています。これらも人が目的をもって植え、管理されている植物たちです。このような土地はすでに大きく改変された後である可能性が極めて高いので、注目する緑被とはしません。
ですから、注目する緑被率は樹林地の17.0%とします。
この樹林地に関しても、次回以降、その中身を考えていきます。
緑被率
磯子区の緑被率を知って、驚きました。
2014(平成26)年度26.9%です。
横浜市の全区合計が28.8%ですから、これを下回っています。
横浜南部の磯子区・港南区・金沢区・栄区の4区はそれぞれ、横浜市の緑被率を上回っているんだろうとてっきり思っていました。
港南区も22.1%で下回っています。金沢区は31.5%、栄区は40.6%となっています。
緑被率はおおざっぱな捉え方しかできませんので、その内訳を今後、考えていきます。
※横浜市は、2015(平成27)4月23日付で、緑被率の調査結果を公表しています。
※緑被率については、「航空写真から300㎡以上のまとまりのある緑を目視判読し、 市域面積に占める割合を算定するもの」とされています。
※「平成27年度は、今回の調査結果について、増減理由等の詳細の分析を行う予定」 とのことですから、それは見たいものです。